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大阪高等裁判所 平成6年(行ス)7号 決定

奈良市東紀寺町三丁目二番五三号

抗告人

奥田邦雄

右代理人弁護士

相良博美

北岡秀晃

奈良市登大路町八一番地奈良合同庁舎

相手方

奈良税務署長 有年弘之

主文

本件抗告を棄却する。

事実及び理由

一  本件抗告の趣旨及び理由は、別紙(抗告状)記載のとおりである。

二  当裁判所の判断

一件記録によれば、相手方は、基本事件において乙第二号証の一ないし八を証拠として提出し、同号証の記載について、大阪国税局長が発した別紙の通達(「同業者調査表」の提出について、)に基づき、同局管内の税務署長が保管する管内の納税者の青色申告決算書の記載事項の一部を、右通達の指示に従って転記したものであると主張したことが認められる。これによれば、相手方は、基本事件において本件申立てにかかる文書(以下「本件青色申告決算書」という。)を引用したというべきであり、かつ、右文書は、相手方によって保管されているものであることも認められる。そうすると、本件青色申告決算書は、相手方が所持する民事訴訟法三一二条一号所定の文書に該当するというべきである。

しかしながら、当裁判所も、相手方は、守秘義務によってその提出を拒むことができると判断するものであって、その理由の詳細は、原決定四枚目表二行目の「民事」から、同裏三行目末尾までに記載のとおりであるからこれを引用する。

以上によれば、抗告人の本件申立てを却下した原決定は結論において相当であり、本件抗告は理由がないから、これを棄却することとして、主文のとおり決定する。

とおり決定する。

(裁判長裁判官 藤原弘道 裁判官 辰巳和男 裁判官 楠本新)

抗告状

抗告人(原告) 奥田邦雄

相手方(被告) 奈良税務署

右原告と被告間の奈良地方裁判所平成四年(行ウ)第七号所得税更正処分取消請求事件について、奈良地方裁判所が抗告人の申立にかかる文書提出命令の申立に対してなした却下決定は不服であるから即時抗告を致します。

原決定の表示

事件番号 平成五年(行ク)第四号文書提出命令申立事件

主文 本件申立をいずれも却下する。

抗告の趣旨

一 原決定を取り消す。

二 相手方(被告)は、次の文書を提出せよ。

(1) 主位的に提出を求める文書

乙第二号証の一で示されている業者A及び業者B、乙第二号証の四で示されている業者Aないし業者C、乙第二号証の五で示されている業者A、乙第2号証の六で示されている業者A、乙第二号証の七で示されている業者A、乙第二号証の八で示されている業者A及び業者Bの計一〇業者の各所得税青色申告決算書

(2) 予備的に提出を求める文書

乙第二号証の一で示されている業者A及び業者B、乙第二号証の四で示されている業者Aないし業者C、乙第二号証の五で示されている業者A、乙第二号証の六で示されている業者A、乙第二号証の七で示されている業者A、乙第二号証の八で示されている業者A及び業者Bの各昭和六一年ないし昭和六三年分の所得税青色申告決算書写(申告者、税理士の住所・氏名・電話番号、事業所の名称・所在地番、従業員の氏名等の固有名詞を削除したもの)

との裁判を求める。

抗告の理由

一 本件文書提出命令の申立に対し、原決定は、〈1〉被告は本申立にかかる文書の所持者でないこと、〈2〉写しについて文書提出義務を負うものではないこと、〈3〉申立にかかる文書が民訴法三一二条一号所定の引用文書に該当しないこと、〈4〉被告には国家公務員法等に定める守秘義務があること、の四点を理由として本申立を却下した。

二 しかし、原決定は左記の点で理由がない。

第一に、被告は本申立にかかる文書の所持者ではないとの主張を全くしていない(被告の平成五年一一月一〇日付文書提出命令の申立に対する意見書参照)。過去においても税務署長は本件と同種事案において各税務署を管轄する国税局長を通じて所得税青色申告決算書を提出してきた経過がある。

第二に、申告者等固有名詞を削除した写しを提出するかどうかは専ら守秘義務との関連で問題となるものであり、被告から決算書原本を提出させて裁判所において固有名詞等を削除した写しを作成して提出するか、最初からそうした写しを被告に提出させるかは単なる提出方法の差異に過ぎない。したがって、原本そのものが存在する以上、裁判所において予め固有名詞等を削除した写しを作成して提出を命じることは文書提出命令の範囲内の行為というべきである。

第三に、同業者調査表は、それ自体では何らの証拠価値もなく、その作成に用いられた申告決算書の存在とその記載が正確に移記されたことをもって始めて意味を有するものである。そのことは正しく申告決算書が引用文書であることの証である。

第四に、守秘義務の点については、前記のとおり固有名詞等を削除した写しを被告に提出させ、あるいは被告に決算書原本を提出させ裁判所において写しを作成した上で顕出することによって義務違反を回避することは充分に可能である。

三 よって、抗告の趣旨記載の裁判を求める。

一九九四年二月二三日

右抗告人代理人

弁護士 相良博美

弁護士 北岡秀晃

大阪高等裁判所 御中

大局課一訴第907号

(一般通達)

平成4年11月26日

奈良税務署長 殿

大阪国税局長

「同業者調査表」の提出について

奈良地方裁判所平成4年(行ウ)第7号事件の訴訟遂行に必要があるから、下記により、別紙「同業者調査表」を作成し、平成4年12月11日(金)までに局課税第一部国税訟務官室へ提出されたい。

なお、本通達は訴訟遂行に必要であるから、別紙「同業者調査表」の提出の際に併せて返戻されたい。

1 作成対象年分

昭和61年分、昭和62年分及び昭和63年分。

2 作成対象者

上記1の作成対象年分を通じて、次の各条件のいずれにも該当するすべての者。

(1) 青色申告書により所得税の確定申告書を提出していること。

(2) 土木工事業者で、主としてフェンス、ガードレール設置工事者を営む者であること。

(3) 上記以外の業種目を兼業していないこと。

(4) 事業所が奈良、葛城、桜井、東大阪、八尾、枚方、門真及び宇治の各税務署のいずれかの管内にあること。

(5) 年間を通じて事業を継続して営んでいること。

(6) 売上原価の額が、3千万円以上、1億5千万円未満であること。

(7) 対象年分の所得税について、不服申立て又は訴訟が係属中でないこと。

3 作成要領

上記2の作成対象者の所得税青色申告決算書(以下、「決算書」という。)に基づき、別紙を作成する。

ただし、調査を行った者については、調査額による。

(1) 「納税者名」欄には、それぞれA、B、C…と表示する。

(2) 「〈1〉売上金額」欄には、決算書の「売上(収入)金額(雑収入を含む)」欄に記載されている金額を記載する。

(3) 「〈2〉売上原価の額」欄には、決算書の「差引原価」欄(原価計算を行っている者については、「差引原材料費」欄、「労務費」欄及び「外注工賃」欄の合計額)、「給与賃金」欄、「外注費」欄及び「専従者給与」欄の合計額を記載する。

(4) 「〈3〉一般経費の額」欄には、決算書の「差引原価」欄に記載されている金額、決算書の「経費」欄の「計」欄に記載された金額及び決算書の「専従者給与」欄に記載された金額の合計額から「〈2〉売上原価の額」欄に記載された金額と特別経費(建物の減価償却費、利子割引料、地代家賃、貸倒金、税理士報酬、減価償却資産の除却損)に相当する金額の合計額を控除した金額を記載する。

(5) 「〈4〉算出所得金額」欄には、「〈1〉売上金額」欄の金額から「〈2〉売上原価の額」及び「〈3〉一般経費の額」の各欄の金額を控除した金額を記載する。

別紙

同業者調査表

〈省略〉

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